「お前はやけにチョキにこだわるな。」




じゃんけんぽん


「そういえば隊長は、じゃんけんで必ず最初にグーを出されるんですよ。」
それを花白に教えてくれたのは文官だった。
ちょうど珍しく花白がこはなと遊んでいた時のことだ。
こはながじゃんけんをしたいと言い出したのでその相手をしている時に
文官が通りかかって、それを見て思い出したのであろう。
今は銀朱の方が立場が上とは言えど、銀朱のことをこはなよりも小さい頃から知っている文官は父親や兄みたいなものなのだ。
「今でも、その癖が直ってないからすぐに負けてしまわれるんですよねぇ。」
昔のことでも思い出しているのか、文官は柔らかい笑みを浮かべてそれを教えてくれた。
「それ、ぼくもしってるよ!力いっぱい手を出すから、いっつも手をにぎって出すんだよ。」
一緒に聞いていたこはながきゃっきゃと無邪気に言った。
「…へぇ…っていうか銀朱、こはなとじゃんけんとかして遊んでくれるんだ。」
「うん。でも一番おっきいぼくともよくじゃんけんしてるみたいだよ?でもおっきいぼく、いつも銀朱に負けてるんだ。
 なんで最初にグー出すの、わからないのかなぁ?」
こはなの言葉に、花白は眉を顰めた。
(まさか、あいつがこはなでもわかる銀朱のクセに気付かないはずがないじゃないか。)
そう思ったが、そんな疑問をこはなに投げかけても回答は返ってはこないだろう。
文官にと思い文官を見上げると、苦笑して肩を竦めていた。
どうやら原因はわかっているようだが教えてくれる気はないらしい。
(…ま、今暇だし一回自分の目で見てみようかな。)

しかしそうそうじゃんけんをしている現場に出くわすことはないだろう、と花白は思っていたのだが、
何とも偶然とはあるもので、城と城門の渡り廊下で暗い銀髪と桜色の髪の二人を見つけた。
花白はこっそりと二人に気付かれないように壁の影に隠れて二人の様子を伺ってみる。
「あーあ、捕まっちゃったな〜」
「…ったく、貴様が逃げなければこっちもそんなに追い掛けはしないんだから話くらいちゃんと聞かないか!」
どうやらいつものごとく、救世主は執務室を抜け出したせいで銀朱とおいかけっこをしていたらしい。
またやってるよあいつら…と花白は思っていたが、いつもはこの後どうにか銀朱を丸め込んだりフェイントをかけたりして
おいかけっこを再開しているところだが今日は少々様子が違うようだ。
「…ね。どう?勝負する?」
「あぁ、受けて立ってやろう。これで俺が勝ったらちゃんと仕事をやってもらうからな!」
「わかったよ。…それじゃぁ行くよ。」
そう言って二人、静かに構えを取ると。

『じゃーんけーん……』

「…フ…フフ…さーぁ俺の勝ちだ!」
「……あーあー残念。」
花白の目に写ったのは、握った拳を高々と挙げて笑う銀朱と、そんなに悔しそうには見えない、ピースの形を突き出している救世主の姿。
(え…っ、なんで?!)
花白は、あの、どんな勝負事にも負けるなど決して許さないという救世主があっさり負けているという事実に驚いた。
そんな疑問が頭を巡っている時、
「お前はやけにチョキにこだわるな。」
という銀朱の声が聞こえた。その言葉に、花白は眉を潜める。
自分でも何度か救世主相手にじゃんけんの勝負を(無理矢理)させられたことがあったのだが、そんなクセがあったことはない。
お陰で悔しいことに彼に勝てたことはないのだ。
銀朱の言葉を受けて、救世主はというと、いつものようにヘラリと笑って
「えーそんなことないよ。タイチョーそんなこと考えるなんてヒマだね。」
なんて言ったことで銀朱を怒らせていた。 (あれは絶対わざとやってる。)

「……何それ。」

花白は眉を顰めて呟いた。
救世主の雰囲気から察するに、彼も銀朱の癖は見抜いているのであろう。
しかし、銀朱が自分の癖がわかってない故にいつも負けてるのに、救世主がチョキを出す理由がわからない。
「はいはい、とりあえず俺の負けだったわけだしお仕事ちゃんとやるよ。」
じゃ、タイチョの執務室行こっか。と、救世主が銀朱の肩を叩いて場内に入っていこうとする。その顔がやたらと幸せそうで。

何故救世主がチョキにこだわるのかがわかってしまって、花白は思わず言葉を失ってしまった。

「…っ、ばっかじゃないの?!」
あいつ、わざと銀朱に負けてやってんだ。こうやって一緒にいる口実を作るために。
逃げてばかりだと追い付いてもらえないからと、たまにこうやって賭けを持ちかけては銀朱に勝たせて捕らえてもらうために。

花白は、もうその場でガックリとするしかなく。
「…あーなんか当てられた気分。腹立つから玄冬んとこ行こっと。」

自分も愛しい人の元に行く決意をしたのだった。















「隊長って負ける時は必ずグーですよね。」という文官の銀朱相手の個別セリフと
「お前はやけにチョキにこだわるな。」という銀朱のひろし相手の個別セリフから派生した妄想なんですけども。
必ずグーで負ける=最初にグー出すクセがあるからそれを知ってる相手だと負けてしまう…とかいう解釈してみたんですが、
ひろしはチョキにこだわるフリして銀朱にワザと負けてあげるとかいうコトがあったら萌えます。
負けて言うコト聞いて銀朱を優位に立たせておいてイザって時には勝ちますひろし。ヤツはそういうヤツですよきっと。(笑)

…ということでこっそり(?)この続きはひろし勝利編で裏モノ書いてますのでよければそちらもドウゾ。

2006.10.17