じゃあ、タイチョーの子供が出来た時は俺の名前つけてよ。




名前


何がどうなって元の時代に戻ってこれたのかなんて俺にはわからない。
でも、帰ってきた。
行った時と同じように、突然。
あまりに唐突すぎて、むこうの世界の人たちに何の真実も告げられぬままに。
真実を知っているのは黒鷹サンくらいのものだろう。
でも、あの人ものらりくらりとして本当のことを話すような人じゃないから
きっと俺のことも、ちっこい俺やこぐまのことも話さないだろうと思う。
だから俺が消えてしまったことの真実はわからないんだろうな。
花白も、熊さんも、白梟も…

そして、銀朱も。

そう思うと胸のあたりがちくりと痛んだ。
言えるうちに、ちゃんとホントのこと、ホンキで言っておきたかったな。
俺が遠い未来から来たんだってこと。
俺が、本気で銀朱のことが好きだったんだってこと。

今さら思ってももう遅いことだけど。

「ここにいたのか、救世主。」

ほんの数日前まではいつも聞き慣れていたものより少し高い声が俺を呼んだ。
俺の、幼なじみ。そして、銀朱の子孫。

「なぁに?ってかオサナナジミなのに救世主って呼ばなくていいって、タイチョー」

「…それならお前も名前で呼べって言ってるだろう。」

「んー…なんつか、ずっとタイチョーで呼んでたからさ、なァんかこの呼び方で慣れちゃって。」

いつもと変わらない会話。あの世界に行くまではあたりまえのように過ごしてきた時間。
それが変わらなくここにあることに安堵するが、どこか寂しく感じるのはなぜだろう。

そんなことを思っていたところに幼なじみは巻き物を差し出してきた。
あの世界にいた時にも何度か見かけたことのあるそれに、心がドクンと高鳴った。

「…何?」

「この前我が家の家系について調べていたら面白いものを見付けたんだ。
あまりに家系図が長いから見落としていたのかな。」

最初のほうから直系の血族を見てみろよ。そう言われて何かと訝しく思いながら巻き物を受け取った。
あちらの世界にいた時にこの家系図を見せてもらったことはあるものの、じっくりは見たことはなかった。
あの時見たよりも随分と長くなったそれにフラッとしてしまいそうになったが、
幼なじみが何やってんだよ。と言って家系図のかなり最初の、インクが薄くなりかけているところを指した。

そこには。

「まさか今まで自分でも気付かなかったことが不思議だよ。お前と同じ名前の祖先がいたなんてな。」

『銀朱』という名前に続いて書かれた、俺と同じ名前があった。

それは遠い出来事のような、でもつい最近あったことのような記憶。
銀朱の執務室。銀朱が仕事をしている一生懸命な姿が好きで、それが見たいがためによく入り浸っていた。
…なんだかんだで構ってもらいたくてちょっかいかけてはよく邪険にされていたけど、結局最後には折れてくれる。
この日もそうだった。

『ねぇ、タイチョー。』

『…なんだ。』

『俺タイチョーが好きだからお嫁さんにもらいたいけど、タイチョーはえらいえらーい祖先の血を引く一族だから
 血を絶やすわけにいかないじゃん?』

『…血を絶やすことが出来ないというのは正論だが、嫁とはなんだ嫁とは!貴様、冗談はほどほどにしろよ…?』

『えー俺本気なんだけど。…じゃあさ…』

『………うん?』

『じゃあ、タイチョーの子供が出来た時は俺の名前つけてよ。』

『……はぁ?』

『籍が入れらんないならさ。俺の名前つけてもらって気分だけでもタイチョーの家に入れたらなぁとか…
 なんて、やっぱダメかな?』

『……ったく。馬鹿を言うのも大概にしろよ。』

『あーひっどいなぁ。俺ホンキでタイチョのこと好きなんだけど。それこそホントにお嫁さんにしたいくらいにさ。』

『はいはいわかったわかった。それより貴様、ここにいるなら仕事を手伝え!…というかこの仕事は本来貴様のものであって…』

『……はぁい、わかったよ。
 …………でも、俺ほんとに銀朱が好きだよ。だから、いつ俺がいなくなっても
 覚えていてもらえるように、名前だけでも傍に置いておいてほしいんだけど…なんて…ね。』

『……?なんだ?』

『ん?あはは、なんでもないよ。ってかタイチョーってヘンなとこで耳良いよね。悪口なんて言えないなぁ。』

俺はいつものように、本音は冗談で誤魔化した。
それに銀朱が気付くなんて思っていなかったし、その時銀朱がどういう反応をしていたかなんて覚えていない。
ただ、あの頃は二人でなんでもないようなことを話していることが幸せだったのに。

「……ぃ………おい!お前どうしたんだ?!」

とおくで、幼馴染みの声が聞こえる。

でも。
今の俺には目の前に書かれた『銀朱』という紙の上だけに存在する名前と
隣に書かれた俺と同じ名前しか目には入ってこなくて。

(ぎんしゅ。)

俺が知ることは出来なかった、共に時を歩めなかった銀朱の未来。
その時、アンタは何を考えてた?
この名前をつける時、どう思って付けたんだ?

なんて。
今さら思っても、もう遅いことだけど。













当たり前のはずの日常だったのに、アンタに会えないことが、こんなにもつらい。











花帰葬はどうしてもちょっとアンハッピー?な方向にしか話が思い付きません…
や、一応これ救→←銀のつもりなんですけどね。そうは見えない。
そして基本ラブイチャ話書きなのでなんとなくこういう文苦手です。むしろ文書くのが苦手です。NON!
色々いっぱいいっぱい感がいなめませんがご了承ください…↓
今度はがっつりバカップルっぽいのを書いてみたいもんです。

子供の名前云々はまぁ、不謹慎ながらこんなコトあったりしちゃったら個人的に萌えてしまいます…
また別の話になりますが、元に戻った世界で大くんが幼馴染みが祖先の墓参りに行くというのに付き合って行った時
お墓に擦り切れた『銀朱』と小さく書かれている名前を見つけて、銀朱と自分とは違う時の人間だったんだっていう現実を
改めて思い知ってしまうとかいうような話も考えてたりしました。
どっちにしろ(私的には)えらくダークなカンジです…よ。

打鶏肉の世界が実際繰り広げられてたとしても実際バグが戻ってしまうと全てが元に戻って
玄冬と救世主の存在ってーのが元に戻っちゃうのかなーとか思うと色々切ないです。
だって大くんはあんなに銀朱が好きなのに(見るとこ偏ってます志音さん)時が違うわけだから
一生会えなくなるんだもの…!ロミジュリもビックリな切なさだよコレ!

本編があってこその 『花帰葬』だとは常々思うわけですけども、
打鶏肉の世界観が殺す殺さないなんていうことがない平和?な世界なので、どうしてもそちらに憧れてしまう…
一人のキャラも欠けずに皆なかよくしてるなんて、幸せだと思いませんか…?なんて。
個人的には永遠に打鶏肉の世界が続いていればいいのになぁとか思ってしまいます。主よ、バグを直さないで!(笑)
……まぁ、どんな世界であれ花帰葬の箱庭世界は大好きなんですけどね。(笑)

2006.10.5