「先生、釣りの勝負をしないか?」
突然そう切り出してきたのはカイルだった。

どうしようもないくらいに好きだから。【前編】



「…え?カイル、釣りは出来るの?」
蒼い目をパシパシと瞬きさせてレックスが問う。
船内にあった竿をふと見つけた時、ソノラが誰も使っていないから
使ってくれてイイよ。と言っていたものだからレックスはすっかり
カイルもソノラもスカーレルも釣りはしないものだと勝手に思い込んでいたのだ。
「おっと舐めるんじゃねぇぞ。俺だって海の男のハシクレなんだ。釣りくらい出来る。」
この島に滞在して結構長い時が経ったが、カイルが釣りをしているところなんて見たことがないレックスは
こっそり眉を顰めた。それを疑惑だと受け取ったらしいカイルが口を尖らせる。
「あ。さては信用してねぇな?」
「いや…そんなコトはないけど…」
慌てて弁解したレックスだがカイルはどうも分かってくれなかったようで。
「よぉーし。そんなに疑うんだったらやっぱり勝負しようぜ。先生には絶対に負けねぇから。」
変に自信を持たれてそんな事を言われてしまえば、おっとりしてるくせに
人一倍負けず嫌いなレックスのことである。
「…わかった。受けて立つよ。」
と、勝負を買ってしまったのである。
「よし!そんじゃ、さっそく…」
その返事を聞いて意気揚々と竿を準備するカイル。ちゃんと2本分。何とも用意周到である。
そしてレックスに竿を渡す時にふと考える風な顔をして…
「…ただ勝負するだけなら面白くないからな…賭けでもするか?」
と問うと、レックスも
「いいよ。何を賭けようか?」
など答えたりして。レックスも何だかんだで乗り気になっていたりするのである。
ウィルがその場にいたら呆れ返ることだろう。
「そうだな…お約束だけど、相手の言うコトを1つ聞くってのはどうだ?」
本当にお約束だ。しかしこれがカイルの狙いだったりするのだが。
それを知らずにレックスは二つ返事で了承してしまうのであった。





それから半刻が過ぎた頃。
「はははっ!先生、勝負あったな?」
「うっ…ウソだろー…?!」
ほんの数十分の勝負だったのだが差が明確だった。
「…なんで今まで晩ご飯の釣りとか行ってくれたりしなかったんだよっ!!」
「おいおい…何か言う事がズレてる気がするんだが…」
餌はお互いに同量のミミズを使用。その結果小さい魚や少しだけ大きさのあるものを
ちまちまと釣り上げていたレックスに対してカイルの方は大物を
どんどん釣り上げていたのである。数の方ではレックスの方が少しだけ勝るが
大きさが並み大抵のものではない。一目で見てわかるくらいにカイルの勝ちだ。

−−ついでに言うとカイルは宝箱まで釣り上げていたりする。

「な?海の男を舐めるんじゃねぇよ。」
満面の笑みを浮かべるカイルをレックスはじっとりと睨み付ける…が、
そんな顔をされてもカイルは飄々としていて。
「先生ももっと頑張るこったな。」
「ううー……」
完全に負けてしまったのでぐぅの音も出ない。
「…さて。それじゃぁ俺のお願い聞いてもらおうかな?」
ずいっと体を近寄らせられてレックスがじりじりと後退してどうにか逃れようとするが
カイルががっしりと腰を掴んでそれを阻止する。
「こら。逃げんじゃねぇよ。」
優しい…だがいつもよりも少し低められた声音にビクリと反応してしまう。
レックスはカイルのこんな声に弱い。それをカイルも知っている。
「…カイル…ズルいよ…」
俯きながら少しスネたような声でボソリと言うレックスの態度が可愛く思えてカイルはほくそ笑む。
レックスは子供達の前では大人の「先生」としての顔をするのだが、自分よりも年上の相手に対しては
ふと。子供のように甘えるようになるのである。

これがわかったのはつい最近で。
それは幼い頃に両親を亡くし、村の人々に育てられたとはいえ所詮は他人だ。
レックスの性格からして気を使って甘えたい年頃でも誰にも甘えなかっただろうし、
その反動なのかもしれない。
しかしこの島にいる者はそれを嫌だなんて言わない。むしろそれを歓迎して
レックスを甘やかし、時には親のように兄や姉のように厳しく接するのだ。
カイルもそのうちの一人であり、レックスに対しては結局甘くなってしまう。
…だが。
最近ではそれ以上の…親や兄弟が抱くような感情とは全く別の感情が芽生えてしまっていて。
(−−あー…ちくしょう。これはもう重症だな…)
レックスに対する気持ちは冷めることなど全くなく、むしろ燃え上がってしまい。
こんな、「賭け事」という手段に出たりしないといけないくらい彼を欲してしまうのだ。

続く→


ちょろりと書くつもりだったのがうっかり長くなってしまうというのはいつものコトです。ゲフッ。
しかし、最初書きたいと思ってたシーンを書くために付けた文章が長くなるというのは何とも不本意なカンジ。
しかもそのシーンがまだ出てきていないというのも不本意なカンジ。
でもそんな不本意満載なコトばかりやるのが自分というようなモンの気がするのでまぁイイや。(投げやり)

というコトでまだ続きますー…無駄に長くてスンマセ…(汗)