ある日の図書室で。




「…あれ?珍しいな。お前が図書室なんかにいるなんて。」
…よりにもよって一番見つかりたくないヤツに見つかってしまった。
あまり広いとは言えない船室に詰められた本棚の合間で、誰にも見つからないように上手く隠れながら本を見ていたのだが、
さすが相棒というべきなのか。その存在をすぐに気付いたらしい。
ハーヴェイは内心で小さく舌打ちした。自分で言うのも何だが、自分が図書室などいうところが似合わないというのは百も承知なのだ。
しかし今どうしても自分にはここにこなくてはならない理由があって。
とりあえずこの男に、今自分が見ている本を見られるのはマズいと思ってこっそりと後ろ手に近場にある棚にとりあえず本を隠した。
「……お前こそココに何の用事があるんだよ?」
誤魔化すためにとりあえず話を逸らせたくて、ハーヴェイは声をかけてきた男−−−シグルドに問いを向けた。
「ん……あぁ。俺はこれの返却に来たんだ。」
シグルドが本を持ち上げながら答えてきた。コンパクトなサイズの本だ。
「ん?それ、何の本だ?」
ふと、この男の読む本が気になった。興味本位で聞いてみると、案外あっさりと教えてくれた。
「恋愛小説だよ。」
「……………はァ?」
あまりの答えに思わず気の抜けた答えをしてしまった。恋愛小説?コイツが???
「…失礼だな、ハーヴェイ。恋愛小説というものもなかなか興味深いものなんだぞ?」
どう興味深いかは全くもって自分には理解し難いものがあるが…そう思っているのが顔に出てしまったのか、
シグルドにはわかったらしく、クスリと笑うのが聞こえる。
「例えば…そうだな。」
ハーヴェイのいた所がちょうど死角になりやすいのをシグルドもわかってか、
人目を憚らない様子でハーヴェイの頭の横に腕をつき、ぐいっと顔を耳元に近寄せてきた。そして。
「君に出会うまで、人の温もりを知らずに凍てついていた俺の心を溶かしてくれた君の存在を、とても愛おしく思うよ……」
周囲に聞こえぬよう、低めに囁かれた声は少し擦れ気味で。囁かれた言葉の意味の理解とは別に、
ハーヴェイは口を魚のようにパクパクさせ、耳まで真っ赤にした。
「なっ……ななな何言ったんだ今……っ?!」
「うーん…今返しに来た本のセリフの一部なんだけど…ハーヴェイ、こういうこと言われるのは苦手か?」
目を丸くして返してきたシグルドにハーヴェイは何も返せず、ハーヴェイは思いきり溜め息をついた。鈍感なヤツめ。
「苦手も何も……っ……っぁああーーーっ!背中がムズムズするぜっっ!」
自分に向けられたセリフではないんだろう、いやきっと冗談でこいつはさっきのセリフを吐いたんだ!…と思いつつ、
熱っぽく囁かれた声に反応してしまった自分が恥ずかしい。
今だに熱が冷めない顔を見られるのが恥ずかしくてハーヴェイはそっぽを向いてしまった。
頭の中が恥ずかしさでいっぱいになっていたハーヴェイは、シグルドが
「うーん…ハーヴェイはこういう告白は苦手か…これじゃぁ本の意味はなくなるな。また考え直さないと。」
などぼやいていたのは聞こえなかったようだ。
「…で、お前が見ていたのはこれなのかな?」
ふとかけられた声に反応して見上げた先にはシグルドの顔の近くでひらひらと振られた本。
「−−−−ああーーーーっっっ!!おまっ…やめろよ!!!コラ返せっっっ!!!!」
一人で悶々としてしまっている間に脇から抜き取られてしまったらしい。隠していたのがバレていたのだ。
またも顔を真っ赤にして本を奪い返そうとしたが、自分よりも背が高いシグルドの頭上に上げられた本は取れるはずもなく。
必死で本を奪い返そうとするハーヴェイの様子を訝しんだシグルドは柳眉を寄せる。
「…ただのアクセサリーの本じゃないか。何をそこまでムキになるんだ…?」
そう言われて、ハーヴェイの動きがふと止まった。たしかに何をムキになってしまったのか。
本を見ていた目的さえバレなかったらただのアクセサリーの本ではないか。
「あっ…あぁ…そうだな…そうだよな。悪ィ何でもねーんだ。」
考えていることを必死で隠すために笑顔を返す。シグルドはハーヴェイのその反応に疑問を持ったようだが、
深く追求することは止めてくれたようだ。
「そうか…」とだけ応えて本を返してくれた。
まだコイツにだけはバレちゃいけないんだ。

こっそり調べに来たのは、コイツへのプレゼントをやるために。もうすぐシグルドが海賊の一味になって2年になる。
仲間になって、相棒になっての記念に何かプレゼントしたかったのだ。
男相手に何故アクセサリーにしたかというと、いつでも身に付けていてもらえるからという理由で。
何だか女々しい気はするが、ステータスアップのアクセサリーなどだと男相手だっておかしくないだろうと思ったのだ。
自分なりには結構考えたよな、とか内心では思ってみたりもしていたり。
とりあえず。まだ時ではないからバレるワケにはいかない。
プレゼントは相手をビックリさせてなんぼ。というのがハーヴェイの持論だ。



そういうことで、シグルドがハーヴェイの秘密にしていたことを知るのはもう少し先の話。
そして、その礼と共にシグルドがずっと考えていたハーヴェイへの気持ちを伝えるためのセリフを言うのももう少し先の話。







「義賊CPで15のお題」6.図書室
これもラプソ前に書いたやつだったんで
再アップのために読み返してみたんですけどあまりにこっぱずかしくてどうしようかと思いましたが
これもまぁ思い出ってことでアップすることにします。一種の羞恥プレイですね。私Mじゃないんですけどね。アハハ。

2004.9.10初出(多分…)