Last Word



白い大理石の広がる王座のある祭壇の手前の広間は、先ほどまで激しい戦いが行われていたように思えない程に静まり返っていた。
冷たい石の上には同盟軍によって倒された二人の男が横たわっている。
その片方の男の、いつもなら燃えるように紅く、美しくなびく髪には自らの血がどす黒く固まりこびりついていて。
もう片方の銀髪の男も、きっちり整っているはずの髪が乱れ、黒い軍服も血によってまた違った黒さを見せていた。
多くの血を流し、普通ならその苦しさに顔を歪ませていても良いというのにこの二人の顔からは
そのような苦痛は一切感じられなかった。
それより、その顔に現れているのは、その場には不似合いな、何かをやり遂げたかのような清清しさだった。
「なぁ…クルガン…まだ寝てねぇよな…?」
掠れた声で赤毛の男は隣の男に声をかける。もう、喋っていられるような気力もないだろうに、
声を発する度にゴポリ、と喉に何かが……血が、詰まったような音を立てる。
「……あぁ…まだ…起きているが…どうした…シード…?」
銀髪の男の方も、苦しさを見せてるわけではないのだが、喋るのが辛いのだろう。途切れ途切れに赤毛の声に応えた。
その応えを聞き、赤毛の男はどこかほっとしたような…そんな風に一つ息をついた。
「よかった…先にお前だけあの世に逝っちまったら…恨んでやるところだったぜ。」
冗談めかして赤毛の男…シードが言うと、銀髪の男…クルガンもまた、
「そうだろうな…あの世に逝ってまで…お前にうるさく言われるのはご免だな…」
などという冗談を返した。
「…へっ…お前のその言い方、最期まで聞けるなんて嬉しいコトだな…」
シードは皮肉を返したが、それもまたどこか嬉しそうに聞こえる。
「なぁ…クルガン……」
シードは力を振り絞って、隣で倒れている生涯の相棒の傍に体を引きずりながら寄っていき、
そのまま力尽きるようにクルガンの上に倒れこんだ。
「クルガン…俺の名前…呼んでくれねぇ…?」
澄んだ深紅の瞳で自分を見つめてくるシードにクルガンは、フ…と微笑みかけ、血で一部固まってはいるものの、
今だその美しさを衰えさせないシードの紅い髪を優しく梳いて、シードの顔を引き寄せてその耳もとで
「シード…」
と、囁いた。
そしてシードもまた、
「クルガン…」
と。力なくではあるけれども。しかし精一杯の微笑みを零して愛しいその人の名を呼んだ。
シードはクルガンの手によって引き寄せられた顔を自ら寄せて、自分の唇を相手のそれに静かに押しつけた。
それは無理矢理やるものでも、相手を奪うためのものでも、何かを求めるものでもなくて。
ただ純粋に、引き寄せられるようにしたキスだった。
「クルガン…ありがとう…」
そっと顔を離して、そう言葉を零しながらシードは、クルガンの胸の上に顔をうずめてその心音を聞いた。
お互いを貪りあうように体を繋げた時とは違って、今のクルガンの心音はとても弱くて。
シードにも。もちろんクルガン本人にも、もう最期の時が近付いてきているのがはっきりと解っていた。
「ありがとう……」
『ありがとう』。その中に様々な想いを込めてシードは呟いた。そしてクルガンの、自分よりも大きな手を握り、
その長い指と自分の指を絡ませた。
シードのその行動に、クルガンは柄にもなく優しく微笑んで、自らも手を動かして応える。
そしてまたシードの髪を梳いてやった。
自分が好きな、シードの紅い髪を。
とても、愛おしそうに。
シードはクルガンを見つめて。クルガンもまたシードを見つめていて。
そしてシードは静かに微笑んで口を開いた。
最期に伝えたかった言葉を伝えるために。

「お前と出会えて。お前と、最期まで戦えて、よかった。」

俺が言った最期の言葉は、クルガンには届いたのだろうか?
それよりも、俺、ちゃんと喋れてたかなぁ?
シードはそれを知る術もなく。愛しい人の腕の中で、その人の最期の心音を聞いて息を引き取った。

お前は。俺と出会って。最期の時まで一緒に戦えて幸せだった?







あまりに古くてお恥ずかしいですけど晒し上げ。私の原点カプですからね。うん。
ちょっとは見直ししようと思いつつ途中で力尽きたので改変もせずそのままですゲフー。

あー…でも今クルシーの最後書くならまた違ったカンジになるだろうなぁ…また機会があれば書いてみたいです。

多分01年とか02年とかいう日付けな話…(白目)