朝一番、どこかしこにそわそわとした空気が漂う中、突然彼が目の前にやってきてこう言った。
「なぁ山本。今日バレンタインだからな。これやるよ。」





 





珍しく…というか今までこんなことがあったのだろうかと思わずにはいられないほど
穏やかな…というかそれはもう太陽のようなという例えをしても良いような笑顔で、
獄寺は山本に向かって小さな包みを差し出した。
それは淡いピンクのラッピングがされている小さな箱に赤いリボンが綺麗に巻かれており、
いかにも『プレゼント』というものだった。
獄寺の『キャラらしくない』行動に山本はどうすればいいのか反応に困り、思わず固まってしまったのを
悟ったのか、獄寺はぷうっと頬を膨らませると(これも非常に彼らしくない。)
「……んだよ…俺からのプレゼント、いらねぇワケ?」
「いっ…いやまさかそんなコトないって!獄寺からのプレゼントなんて思いもしなかったからビックリしただけ…」
しょんぼりとなりそうだった獄寺の気配に咄嗟に気付き、山本は慌てて顔を横に振った。
本当に思いもしなかったのだ。バレンタインというものは女の子が好きな相手にチョコを送るイベントだとしか思っていなかったし、
こういう行事が嫌いそうな獄寺だから、それに女の子がプレゼントをするのがバレンタインだと思っていた山本としては
本当の本当に、まさか…という気持ちでいっぱいだったわけで。
そんなことを考えてるのがわかったのか、獄寺は
「あー…イタリアじゃぁ男も女も関係なくプレゼントを送るんだよ。好きな人や尊敬してる人、世話になってる人とかにな。
…というコトで受け取れよ。」
好きな人以外にも送るというコトを聞いて内心ちょっぴり残念だったが、せっかくの獄寺からのプレゼントだ。
貰わないわけにはいかない。というか貰わずしてどうする山本武!
「……獄寺、ありがとな…っ!」
自分の最上級の笑顔で差し出された包みを手に取ると、「あぁ。」とだけ言って獄寺もにっこりと笑ってくれた。
それだけで心が満たされる。
山本は獄寺から受け取ったプレゼント1つは、数十人の女の子から貰う多くのプレゼント以上の価値があるものだったし
幸せな気持ちでいっぱいになっていた。
なんせ、本命の人からのプレゼントで極上の笑顔付きだったのだから。




しかし山本は少しは考えるべきだった。獄寺の異常なまでの笑顔の理由を。
そして見つけるべきだったのだ、獄寺の少しの違和感に。

「獄寺くん…」
山本が有頂天になっている頃、少し離れた席にいたツナは山本にプレゼントを渡して引き返してきた獄寺を呼び止めた。
「どーしました?10代目」
ツナには相変わらずの笑顔で対応する獄寺に対し、どこか恐れた表情でツナは話を切り出した。
「ビアンキからのチョコ……もしかして……」
そう言ったツナの視線の先には山本が。
「はははっ。やだなぁ10代目〜あいつならきっと大丈夫でしょ!俺からのプレゼントだと思ったら
毒でも食べますよアイツなら!……ってそうそう10代目にはコレをあげますね。お口に合えばいいんですけど…」
ビアンキの名前を耳にした途端にビクリと体を震わせたが、それを気付かれまいとしながら変わらず笑顔を浮かべて
獄寺は無責任に言いつつ、有名菓子店のラッピングが施された箱をツナに手渡した。
(……本当に無責任だよ獄寺くん……山本は一般人なのにビアンキのポイズンクッキングを食らってしまったら…)
そう。つまりは獄寺が山本に渡したのは獄寺からのバレンタインプレゼントなんかではなくて。
ビアンキから獄寺に向けての、世にも恐ろしい愛のポイズンクッキング。
(…ていうかさり気なく獄寺くんものすごい発言してるよね…好かれてる自信あるんだ…)
とかいうツッコミを、ツナはぼんやりと頭で思いながら可哀想な山本を見るしか出来ないのであった。















ごめん山もっちゃん……!!!
一応バレンタインネタとして考えてたモンはあったのですけど、
何かふと、とーとつに思い浮かんだのがビア→獄のポイズンクッキングを
山本に素敵で無敵な笑顔と共に横流ししている獄寺という図なのでした。
ほんの少しの遊び心なので許してほしイ。こんな可哀想な話書いたけどほんと、山本も獄寺もツナもビアンキも大好きですからー!
ちょっと…ていうかほんと山本には申し訳ないコトしてしまったのでちゃんとしたバレンタインネタはまた後日…!

2005.2.14.