聞きたい言葉





いつも通り、俺は10代目の家からの帰り道を山本と一緒に歩いていた。
不本意だけど。
でも道が同じだから、別々で帰るというわけにもいかないからしょうがない。
そう思ってすっかり暗くなった住宅街に灯る電灯を、歩きながら目で追っているうちに、
ふと隣にあった気配がなくなっているのに気付いた。
後ろを振り返ると少し先に、目の奥に読み取ることが出来ない、感情を隠している、
そんな表情をした山本がじっと俺を見ていた。
「山本?」
不審に思って声をかける。すると表情を変えず、唐突に、
「お前が好きだ。」
とか言ってきた。思わず俺は目を瞬かせる。山本がこういうことを言ってくるのは
今に始まったことではないし、驚くことでもない。でも今こんなことを言ってきたことを
不思議に思って首を傾げると、
「お前、今日何か様子おかしかったから。」
眉を寄せてそう言った。おかしかった様子の内容までは言ってくれなかったけど。
俺の中では10代目が信頼してくれてるっていうのは自分だったっていうのはもう分かっていたし、
山本の言う「様子がおかしかった」というのが10代目の家を飛び出す以前の話なら
もう自分の中では済んだことだし。
だから「別に何でもないって。」と言おうとしたけど。
「俺は、お前がそばにいなきゃイヤだからな。どっか行くなんて許さねー。」
いつも飄々としているこいつに似合わない駄々をこねたような物言いに俺は固まってしまった。
何言ってんだよこいつ。
「今日、俺がツナん家行った時だって、いつの間にかいなくなってたしさ。何思って出てったのか知らねーけど。
まぁあの小僧が「獄寺は帰ってくる。」って言ってたからツナん家で待ってたけどさ。
お前戻ってきて、異様に機嫌が良かったのは気になったけど、まぁ元気になったみたいだし大丈夫かな、とか
思ったけど、これだけは言わせてもらうぜ。」
一気に言ってから大きく深呼吸し、ひたりと俺を見据えてきて。
「もし今度、お前がどっかに行ったとしても追い掛けるから。一人でどっか行くなんて許さねーから。
一人になんて…させねーから。」
それだけ言い切ってから大きく息を吐いて、何でもないように俺に追い付いてきて、
すれ違いざまに肩をポン、と叩いて。
「冷えてきたから早く帰ろーぜ。」
と言って先を歩いていく。
そんな山本を、俺は振り返って追い掛けることが出来なくて。

何でってさ。

「一人にさせない。」とか言われて ガラにもなく目から溢れてきたもので頬が濡れてしまってたから。
そんな顔を、10代目の右腕争いしてる相手に見せられっこないから。
もう10代目が必要としてくれてるっていうのが10代目のお母様の話でわかってたからいいんだけど、
それでも誰かに直接言葉で必要としているってコトを表されたら、
コイツ相手にでも嬉しくなってしまった自分がちょっと許せない。コイツのコトなんて嫌いなはずなのに。
でも。
暖かくなった心は本物だから。

「……Grazie.」

誰にも聞こえないような声で呟いて、濡れた頬を袖で乱暴に拭うと
先をゆったりと歩いている山本の背を追い掛けた。















標的32ネタ山獄補完SS。あの時獄の様子に全く気付いてなかったりした山本がちょっと憎いので(笑)
山獄的に補完してみた…つもり。もっさんちゃんと獄のコト見てあげなきゃダメだよ…!!
…ってコトで、何だかんだで獄のコトはこっそり見てたもっさんというコトで書いてみましたが。
もっさんは獄の本当に思ってることはわからなくて、ただ自分の思ってることを言っただけだけど、
でもそれで獄が何となく救われていたりしたらイイなーとか。
天然山本でお送りしました。(笑)

2005.1.21.