あの日早起きしちゃった理由






まだ起きる時間ではなかったんだけど、ふと人の視線の気配を感じたから。
目を開けるとすぐ目の前にはあまり見たくもない顔があった。

「おはよ、獄寺。」
遮光カーテンに光は遮られていたからしっかりとは見えなかったけど、
目の前にいる男は腕で頭を支えながら、その顔はにへら、と笑っていて。
……これは何かの悪い夢だろう。ていうか夢じゃないと困る。すごい困る。マジで困る。
だってここは俺が独りで暮らしてるマンションで、寝室で、ベッドの上布団の中なのだから。
思わず固まっている俺を見て、
「…何だ?まだ寝ぼけてる?俺の顔わかるかー?」
と言い、目の前にいるヤツは野球ばかりしてるせいでマメだらけのゴツゴツした手を俺の目の前でヒラヒラさせる。
「……寝ぼけてねぇよ…」
残念ながら意識はしっかりしてる。念のため頬を抓ってみたりしたが痛い…ので夢ではなさそうだ。
「なんでテメェがここにいんだよ。」
しかも同じ布団の中に。
…それは何となく口にするのが引けて言えなかったけど。
ちょっと奮発して買ったから、さほど狭いベッドなワケではなかったけど、
さすがに人が2人寝るにはそれなりにくっついていないと落ちそうになる。
けどこいつにくっついていたくなんてないから自然とベッドの際ギリギリにいるわけで。
そしたら目の前の男−−−山本は一瞬目を開いて、次の瞬間には布団の端を掴んで、よよよ…と泣き真似なんてして、
「えー獄寺くんひどーい!昨夜はあんなに優しかったのにィ…」
とかほざきやがる。
「きっ…キモイからやめろ!」
思わず鳥肌が。
ブルリと身体を震わせ、とりあえず同じ布団に入ってるなんてコトしていたくなかったから山本に背を向けて、
後ろを振り返ることなく洗面所に向かうコトにした。
寝室からリビングに続くドアを開けると、早朝の冷えた空気の中に何やらツン、とアルコールの臭い。
「……うぇ…っ…」
そうだ思い出した。山本の親父さんにちょっと良い寿司を御馳走になったモンだから、御機嫌になってしまった俺は、
「お前の家行きたいなー。」とか言ってきた山本の頼みを許してしまい、一緒にアルコールなんぞ飲んでしまったワケで。
イタリアにいた頃にワインを飲むのは当たり前だったから、こっちに来ても酒は飲みたくなるもんだからさ。
でもこっちの酒はどうも慣れないみたいで、特にチューハイってモンがいけない。それで悪酔いすることがしばしばあって。
昨日、まさしく悪酔いしたらしい。
酒を飲み始めた時のことは覚えているけど、それ以降は何も覚えていない。
……何かヘンなコトをしでかしたんじゃないかとか想像すると恐ろしい。
いや、山本が同じ布団で寝ていた(らしい)ことがすでに恐ろしいことなんだけど。
それ以上考えるのが怖くなって、とりあえずはシャワーでも浴びて頭をシャキッとさせることにした。

「ふぅ〜〜………」
薄手の赤い長袖シャツを着て、白の3本ラインの入った黒いジャージを履いてバスタオル片手に風呂場から出ると。
「よぉ。お湯かぶって目ぇ醒めたかー?」
リビングのテーブルに食器を置きつつ朗らかに笑う山本が。
酒 の缶が散らばっていたはずのそこはいつのまにやら(というか俺がシャワーを浴びていた間にだろうけど)綺麗にされてて。
思わずリビングの入り口で立ち止まってしまった。
「………まだいたのかよ……」
片付けてくれたのを感謝しなくちゃいけないんだろうけど、こいつに礼言うのも何かイヤだったし、こんな言葉を吐いてしまって。
「えーだって帰るなんて一言も言ってねーだろ?せっかくだから一緒に学校行こうぜ?」
勝手に人ん家漁るのもどうかと思ったけど、食事も用意しておいたしさ。お前どうせ料理出来ないだろ?
と言って山本は困ったように笑い、指した先にはトーストとハムエッグ。俺の好みのブラックコーヒー付き。
「………。」
山本の最後の言葉がひっかかったけど、たしかに俺は料理が得意と言えないし。
そんな俺の家にある食材なんてたかが知れていたけど、それでも立派な朝御飯を作ってくれていたので何だか複雑な気持ちになった。
「ほら、早く食わねーと冷めるって。」
まるで自分の家みたいに自然に馴染んでいる山本に眉を顰める。けど。
(……しゃーねぇなぁ…)
腹は減ってたし、コイツに甘えることにした。

それほどゆっくりしている時間もなかったし、とりあえずは制服に着替えてから食事することになった。
何故か山本は制服をちゃっかり持ってきてるあたり、昨日は泊まる気満々だったのか。俺は許した覚えはないと思うんだけどな…
ま、それはともかく。
食事の味はまぁまぁだ。悔しいけど同じ年のくせに山本は料理が上手いと思う。
トーストにハムエッグを乗せて、口を大きく開けてそれを食べている山本をちらりと盗み見る。
…何でこんな自然に馴染んでんだよ。
今までは俺一人の空間だったのに、山本はするりとこの空間に馴染んでいた。それが何だか腹立たしくてくすぐったくて。
色々考えていた俺の、ぼーっと眺めることになっていた視線に気付いたのか、山本はクスリと笑って。
「どーしたぁ?料理上手い俺に惚れちゃった?」
それを聞いた俺は頭の中がカッとなっていて。
「ば……ばっかやろ…っ…!!誰がお前なんかに惚れるか!!」
気付けば山本を置いてマンションを出ていってしまっていた。

うわー…ちくしょうしまった…自分ちに他人を置いてってどーすんだ。
でも後の祭りで後戻りするコトは出来なくて。俺は途方に暮れていた。
普段は朝一から学校行くなんてコトしないから、このまままっすぐ学校行くのもどうかなぁ〜とか思ってしまって。
……そうだ。どうせこんな早くに出てしまったのなら10代目をお迎えに行こう。
自分で言うのも何だけど、単純つーか10代目のことを思えば山本の顔なんてすぐに忘れ去ってしまって。
ま、あいつのせいでしてしまった早起き、どうせなら10代目のお役に立てようじゃないか。
そう思うと心も晴れてきて、10代目の家に向かう足取りは軽くなった。


残念ながらっつーかムカつくことながらっつーか。
その心も足取りも、その10分後にあいつが10代目ん家まで追い掛けてきて俺の肩を抱いてきた時、
「鍵締めないでお前不用心だぞ。心配だから俺、スペアキー作らせてもらうから。」
そう耳元に囁いてきやがった時に急降下するコトになるんだけどな。












標的28のツナお迎えん時、ごっきゅんともっさんは同じ家から出てきた、または同伴登校してたとしか思えなかったんだもの。(笑)
コレ、朝に獄が家を飛び出していっちゃってもっさんが追い掛けてくるバージョン(この話)と、
朝同伴登校でもっさんと喧嘩して先に獄だけツナん家についてそれに追いついてきたもっさん…っていう2つがあったんだけど、
とりあえず今回は前の方のバージョンの、昨夜うっかり同じ布団で過ごしてしまいましたってのにしてみましたん。
ちなみに昨夜2人の間には何もなかったんですよ多分。(えー)
御要望があればもっさん視点の昨夜の出来事バージョンとか書きたいかもです。

あ、あと最後のスペアキーのシーン。
もう作っちゃってマスターキーを肩抱いた時に胸ポケットに返すとかいうコトもやりたかったんだけど
時間的にキー作れないっちゅーの…ってコトで諦めました。(笑)
ので、キーはもっさんがまだ預かってて後で作りにいっちゃうんだよ!ごっきゅんは結局着いてくコトになって
もっさんの隣でイライラしててほしいです。(笑)
2004.12.19