ノーヒットノーラン






日が沈む頃には空気が冷えて、寒さが身に染みてくるような季節のとある日曜。俺は同じ地区の中学との試合に来ていた。
試合と言ってもまぁ公式な試合ではない練習試合なんだけど、それでもこういう勝負事は何でも真剣に対決するわけで。
腕の怪我は大分良くなって、スタメンというわけにはさすがにいかないけど、
試合で代打で出させてもらえるくらいには回復している。その復帰第一号の試合が今日だったんだけれども。
「はぁ〜…」
情けない。試合に出られるからって浮かれて、ツナと獄寺を呼んだってのに結果は散々。
無理は出来ないってことで投手からは外れて比較的無理が少ない守備に回してもらえたから守備でのミスはなかったけど
問題は攻撃の方で。2回打席に立てて一度目は空振り三振、二度目はからくも強いピッチャー返しでグローブから弾かれたヒット。
普段ならホームランや外野の守備越えのロングヒットが当たり前だってのに。


せっかく、まだ俺の勇士を見たことがない獄寺にカッコイイとこ見せようと思ったんだけどなあ。


暗い気持ちになりつつ、相手校のグラウンドで各自解散になった後、スポーツバック片手に校門に向かった。
休みの日にわざわざツナと、ツナが行くところにはどこにでも付いていくって勢いの獄寺が応援に来てくれてたから
(というか無理矢理誘った。)帰りは一緒に帰ろうと言っていたから校門で待ち合わせにしていたんだけど。
「…よぉ。」
門で待っていたのは獄寺一人だった。


実を言うと俺は獄寺に対して普通の友達という範囲を逸脱している好きという感情を持っていたわけで、
何度か冗談まじりでアタックをかけてた身としては(ちなみにその場合軽く拳による制裁を与えられている…)
思い人が一人待ってるって状況はかなりドキドキするんだけど…
「あれ…ツナは?」
とりあえず胸のドキドキを隠すように問いかけると
「十代目はリボーンさんから急な用事があると呼び出されて先にお帰りになった。
…本当は俺も一緒に行きたかったけど十代目がお前を待っててやってくれとおっしゃったから仕方なく待っててやってたんだよ。」
と、不本意そうに、目はゴツゴツしたリングをいじる指に向けながら答えてきた。
そっけないけどまぁいつものことだし。ツナの言いつけにしろ待っててくれてたって事実に俺は喜びを隠しきれなかった。
その俺の気持ちに気付いたのか、獄寺はチッと舌打ちすると「さっさと帰るぞ」と言って先に歩き始めてしまったから
俺はそれを慌てて追うことになった。
獄寺は普通の友達みたいに横に並んで歩くなんてことはしてくれないから、俺はいつも少し後ろを付いていく。
今日も獄寺の、ふわふわと揺れるアッシュグレーの髪を見ながら歩く。
ふと、触りてーなーとか思う衝動は抑え込みながらな。


こいつはツナ以外と会話するのは面倒なのか、いつも俺から仕掛けないと会話があまりないわけで。
しかし今、静かな住宅街をゆっくり歩いていた時獄寺がふと振り返って上目使いで見上げてきた。
「ンだよ、今日はやけにおとなしいじゃねーか。試合勝ったってのに。」
ぶっきらぼうだけど遠回しな心使いが、何だかくすぐったい。
だからにやけてしまいそうになるのを隠すようにうつ向いて答えた。
「でも、俺の本領発揮したかっこいいトコ、獄寺に見せてやれなかったからなぁ〜…」
なんて。まぁそれは本当のコトだったから。
すると、突然ふと目の前が暗くなって。


気がついた時には獄寺から重ねるだけのキスをされていた。


「……ぇ…?!」
状況の把握が出来た時にはすでに獄寺はひらりと俺から離れていて、
目を丸くしていた俺に「アホ面晒してんじゃねーよ。」と不敵に笑っていて。
「似合わねーくらい落ち込んでっから特別サービス。ったく、んな顔されたらこっちまで気分暗くなるだろーが。」
ま、次頑張ったらいーんじゃねーの?そう言って獄寺は何事もなかったかのように再び歩き出した。


うわ…ヤバい。
突然の獄寺の行動と言葉に心臓がバクバクいってる。
キスされたコトに対してもだけど、暗に次も見に来てくれるっていうような言葉にもドキドキが止まらなかった。
どうしようマジでヤバい顔が緩んでくるのが抑えられない。
「何やってんだ、置いてくぞ」
って言葉にやっと我に返って、急いで獄寺に追い付いた。だけど気持ちは抑えきれなくて。
「うわっ!………ッおい山本!」
人目がないことをいい事に思い切り後ろから抱きついた。
獄寺のうなじあたりから微かに異国のフレグランスと、獄寺自身の香りが混じり合ったものが鼻孔をくすぐって、
また心がざわりと揺れる。
そんな俺にどこか諦めた口調で「ハイハイもう気がすんだか?」など聞いて肩越しに頭を撫でてくる。
「…獄寺がこーやって励ましてくれるってんなら俺、いつも打率悪くてもいいかも。」
思わず出た言葉に、
「ばぁか。今日は特別にお前の野球復帰祝いも兼ねてんだから二度はねーよ。そうだな…」
俺が顔を上げて目の前にあったのは先程振り返った時と同じような、いたずらをする子供のような顔で。
「ピッチャーに戦線復帰して、ノーヒットノーラン達成出来たらいくらでもキスしてやるよ。」
「…マジ?!」
思わず大声で聞き返した俺に少しだけ眉をしかめると
「マフィアは約束は違えねー。」
だと。
よっしゃその言葉忘れんじゃねーぞ?!そう言った俺に、獄寺はまた淡い笑みを浮かべてうなずいて。



なんか…もしかしたら俺の春って案外近いかもしれない…かな?


















タイトル思いつきませんでしたばい…;この後もっさんは死にものぐるいで野球の練習に励むコトでしょう。(笑)
アタイ、そこらのおなごよりも野球知識はあるつもりなんですが(プロ野球応援行くくらいは好きだし…(笑))
それでもわかりきれてない野球用語。ノーヒットノーラン達成っつーのはピッチャーが試合中ずっと相手を誰一人
ファーストにさえも進ませないっつーかなり高度なコト…で良いんだよね?んで、プロの人でもとても難しい。
もっさんがランボとキャッチボールした時にマジ投げしたとかいうくらいだから本来のポジションははピッチャー希望。
んで今回ファースト守備にしたのはそれほどキツくないっぽいし大丈夫かなーってポジションな気がしたので。
(一時期虎の某監督がピッチャーをファースト守備に付かせてたりしてたからまだやりやすいのかな、とか…)
でもファーストって一番ボール受けなきゃいけない場所なんだよね…重要なポジションではあるんだけど。
でもまぁボール受ける左手は無傷だから大丈夫だよネ。
2004.12.14